私たちはよく、運動をした方がいいとか、運動しなさいなどと言われることがあります。
その言葉を伝える人は運動の価値や体験の素晴らしさを知っており、それを伝える相手にもお勧めしたい気持ちがあるのでしょう。運動をすると筋肉が動きます。当然のことですが、この筋肉が動くということは実に多くの要素が詰まった、込められた行為なのです。 身体は、言葉にならなかった記憶を覚えている 今回は、その意味を深めるために、デンマークのリズベス・マーチャーという方が提唱したBodynamicの理論の中で語られている「Code」という概念を用いて解き明かしていってみたいと思います。BodynamicにはCode: コードと呼ばれる分類方法があります。コードとは、私たちが生まれた瞬間から獲得していく”情報”のことです。例えば、赤ちゃんの頃、ハイハイをして自分が行きたかった場所に行こうとします。それは赤ちゃんにとって新しい挑戦です。この挑戦を行うとその結果が脳内の神経に刺激を送って、新たな脳内構造が生み出されます。そして、そのような行為がひとつずつ脳内に刻まれていくことになります。 ですが、このコードという情報はさらにオープンコードとクローズドコードに分かれます。オープンコードとは健やかに発達したものであり、クローズドコードは達成できなかった経験や失敗した行為によって発達するものです。そして、その失敗のコードがが脳内に保存されて、再びその場面に出くわすと(その領域にアクセスしようとすると)防衛や不快が生じるエリアになってしまいます。 つまり、筋肉は記憶であり、歴史であり、反応の器官なのです。筋肉は思い出が詰まった場所ということです。そんな中、運動をするということは、自分でも気づいていなかった閉ざされた領域に一瞬火が灯ることになります。それは、「気づかないふりをしていた想いに、身体が先に手を伸ばすようなこと」とも言えます。では、なぜ身体を動かすことが嫌い・怖いと感じるのでしょうか? 筋肉は、“記憶の入れもの”でもある。 それは、私たちの体には筋肉や骨格といった構造だけではなく、先ほどもお話したように、感情や記憶、そして人生の思い出が詰まっているからです。これはただの比喩ではなくて、ある筋肉が動かない、力が入りにくい、触れたくない..そんな感覚の奥には「かつてその機能を使えなかった経験」が埋もれていることがあるのです。 身体心理学の分野でも扱われるそのClosed Code(閉ざされたコード)は、過去に何らかの理由でその部分を使うことができなかった、使うとつらかったために身体が自然と”閉じてしまった”エリアです。 「怒ってはいけなかった」→胸を張る筋肉に力が入りづらくなる 「自己主張すると嫌われた」→肩を開くことに無意識のブレーキがかかる 「立っているのが怖かった」→背骨の支えが弱くなる 身体はそれを覚えている。記憶して(くれて)いるということです。 でも、私たちは運動をするとき、そこに触れているかもしれません。 運動という行為は自分でも気づいていない”閉じた領域”に偶然アクセスしてしまうことがあります。ある動きがとても怖い、この動作は嫌い、そのフォームはなんだかしたくない。それは、筋力や性格の問題ではなくて、「そこに眠っていた自分」が反応しているのかもしれません。運動の種目そのものではなく、その時に出会う自分に反応しているということ。 だからこそ、運動は強制されるものではないと考えます。 「運動しなさい」「もっと身体を鍛えなさい」という言葉が時に人を傷つけてしまうのは、その人の触れたくない何かを無理に開こうとするからです。さらに言えば、その触れられたくない領域は、これまでその人がそうすることで自分を守ってきた、保ってきた在り方なのです。だからこそ、尊厳を持って向き合いたいと思います。 だから、スタジオは「ダンスフロア」でありたい。 こうして考えすぎると、「そんな繊細なこと言ってたら運動できないじゃん!」って思われるかもしれません(笑)ですが、それくらい意味のあることをお互いが取り組もうとしているのです。だから私は、運動は招待(Invitation)だと思っています。「もしよろしければ、どうぞご一緒に。」ダンスフロアとなっているスタジオで一緒にステップを踏むかどうかはあなたに選択権があること。気分も大事。だから、バルコニーから見るのもいいし、音楽が変わったらちょっと踊ってみようかなとワクワクするのも良し。という気楽な感じで。 ここまで文章を書きながら思うと、運動することは出会い直しともいえるかもしれませんね。もちろん、自己との出会い直しということです。それは未知に開かれた可能性です。 さ〜て、あしたもダンスフロアでダ待ってみようかな。思わずみんなが踊り出したくなっちゃうような。 |
Author Wataru Soda Archives
7月 2025
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